ダブルバインドをご存知でしょうか?

ウィキペディアによると「ある人が、メッセージとメタメッセージが矛盾するコミュニケーション状況におかれること」とされています。人類学者・言語学者であったグレゴリー・ベイトソンによる造語です。
誰かが相反するメッセージを発することで、そのメッセージを受け取った人が混乱している状態を表しています。

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ダブルバインドの例

先日、仲の良い経営者から「うちの社員には主体性がないので困っている。なんでも社長に判断を仰ぐのではなく、もっと自分の頭で考えて仕事をしてほしいものだ」というお話を仰いました。
その企業では会社規模拡大に伴いルールを整備していました。しかし、数年前に社長が持っていた決裁の権限などの一部を管理職や社員に委譲したにもかかわらず、些細なことまで社員が判断を仰ぎに来るのでストレスを感じているとのこと。
そこで、社内の状況確認をさせていただくと、社長と社員のコミュニケーションは以下のようになっていました。

<ケース1> ミドルマネージャーとの会話

社員A:○○の件ですが、××としたいと思いますが、よろしいですか?
社長:それはおかしいのではないか。△△とすべきだ。
社員A:わかりました・・・。
社長:これくらいの判断は、ルール上は君がやるべきものだ。

<ケース2> 一般社員との会話

社長:おい、Bさん。さっきから手が止まっているようだが、どうかしたのか?
社員B:じつは、◇◇の件でなかなか良い対処方法が思いつかなくて。
社長:悩んでいるなんて時間の無駄だ。きみたちは頭で考える必要はない。手順通りに仕事をすれば良い。そのためにマニュアルがある。

<ケース3> 古株社員Cさんの愚痴

社員C:社長には、何を言っても怒られる。勝手に進めていると、後からダメ出しをされてやり直しになる。結局、社長に言われたとおりにやるのが一番効率的な方法なのです。

さて、上記の社内コミュニケーションで、社長の「社員に主体性を持たせたい」という思いは社員に伝わっているでしょうか?
もしこの状況で社長から「もっと主体的に仕事をしてほしい」と言われたら、社員は混乱するのではありませんか?まさにダブルバインドですね。

ダブルバインドを見つけるために

社内のコミュニケーションに課題を感じている方は多いと思います。その一因にはダブルバインドがあるかもしれません。でも、自分がダブルバインドなメッセージを発しているかは分かりにくいです。そのようなときには、「認知と行動のループ」というフレームワークが役立ちます。意外な気づきにつながるかもしれませんよ。

認知/行動ループは、組織開発のコンサルタントで教育者でもあるWilliam R. Noonanが彼の著書「Discussing the Undiscussable(議論できないことを議論する)」の中で“防衛的なルーチン(Defensive routines)”として提唱したものです。
具体的には、コミュニケーションにおけるお互いの認知と行動について、そのプロセスを以下のように分解してズレを認識していきます。
相手の行動 → 自分の認知
   ↑       ↓
相手の認知 ← 自分の行動

例えば、前述の会社の場合、以下のようになります。

<相手(社員)の行動>
社長の指示通り仕事をする。

<自分(社長)の認知>
主体性がないと感じる。
ちゃんと仕事をしてくれているのか不安になる。

<自分(社長)の行動>
社員に事細かに指示する。
判断業務を社員任せにせず、自分が行う。

<相手(社員)の認知>
どうせ自分の意見は通らない。
社長の言う通りにすればいい。

まとめ

いかがだったでしょうか?
社長は社員側に全ての問題があると考えていましたが、社長自身にも問題があるようです。従って、改善策としては社員の研修だけでなく、社長のコミュニケーションの改善も必要となるでしょう。
でも、社員から社長に「あなたにも問題がありますので改善してください」とは言いにくいですよね。

そのようなときには、社外のコンサルを使ってみるのも一考です。
イソップ寓話の「ネズミの相談」ではありませんが、“猫(経営者)の首に鈴をつける”役のご用命も承っております