新型コロナウイルス感染症拡大に伴う緊急事態宣言が解除されました。とはいえ、まだ一定数の新規感染者が報告されており、感染のリスクがゼロになったわけではありません。現に新たなクラスターも発生しているようです。感染を予防しながら生活する、新たな日常を作らなければならないようです。
新型コロナウイルスの感染の方法は、咳や呼吸・会話の際の飛沫(エアロゾルを含む)と、患者及び患者が触ったものからの接触によるとされています。患者の体内から出たた後も活性を維持するようで、WHOによると、プラスチック表面で最大72時間、段ボールの表面で最大24時間生存するとされています。
参考:厚生労働省 「新型コロナウイルスに関するQ&A(一般の方向け) Q2」
「マスク」に注目が集まりがちですが、咳やくしゃみを発した時に生じる飛沫の飛散距離を短くすることはできますが、エアロゾルの吸入や手指からの接触感染を防止することは難しいです。
従って、新型コロナウイルスの感染を予防するには、消毒を併用する必要があります。
油脂の膜を纏ったエンベロープ型のウイルスであるコロナウイルスは、界面活性剤(石ケン)やアルコールでその油脂膜を壊すことで感染力を失わせることができるといわれています。
参考:サラヤ 「感染と予防 新型コロナウィルス」より
しかし、手指以外の場所は頻繁に石ケンで洗うのは難しく、また消毒用のアルコールは入手困難な状況が続いています。そこで、代替の手段として次亜塩素酸水がよく使われています。
ただ、化学を学んだ身として、最近の次亜塩素酸水の使われ方に少し疑問を持っていました。
【飲んでも吸っても無害?】【食品添加物だから安全?】
いえいえ、次亜塩素酸ナトリウムよりは弱いですが、有害性はあります。プールや水道に含まれる塩素濃度に上限があることは、これを物語っています。
また、「どういう方法で作られたものなのか」ということも大事です。
1)食塩や塩酸を水に溶かして電気分解する方法
2)次亜塩素酸ナトリウムをクエン酸などで中和して作る方法
3)高度さらし粉などの粉を水に溶かして作る方法
などがあり、「食品添加物」として認められているのは1)となります。
成分を見て、クエン酸やpH調整剤などが含まれていたら、2)や3)で作られたものであり、これらは化学反応を起こいていることを理由に食品添加物とは認められていません。
参考:厚生労働省通達【次亜塩素酸ナトリウムに酸を混和して使用する事について】
最近出回っている次亜塩素酸水には、成分や濃度などの表記がされていないものを見ます。これらはもしかすると、トイレや台所用の漂白剤として容易に手に入る次亜塩素酸ナトリウムと、お掃除用として百均などで出回っているクエン酸を混ぜて作ったものかもしれません。同じ成分だからといって安心してはいけないのです。
そして、実は、次亜塩素酸水の食品添加物としての用法には制限があります。それは、「使ったら飲用適の水で十分に洗浄する」というものです。害はないとしながらも、積極的に摂取することは避けようとする意図を感じます。
「安全だと言っているけど、本当に大丈夫なのかな」と思っていたら、経済産業省がファクトシートを発表しました。
「次亜塩素酸水」等の販売実態について(ファクトシート)
「次亜塩素酸水」の空間噴霧について(ファクトシート)
自粛後の活動再開に伴って、入り口で次亜塩素酸水を噴霧して入室者を消毒する店舗や、オフィス内に次亜塩素酸水を噴霧しているところがあるというニュースをみましたが、このファクトシートによると、消毒剤を人体や空間に噴霧することに各国の専門機関が懸念を表明しているほか、次亜塩素酸水の吸入による健康被害とも捉えられる情報や、次亜塩素酸水による金属腐食やゴムの劣化などの事例が報告されているそうです。
なお、手指の消毒には、食品添加物グレードなら一部使えるようです。
参考 NITE 【新型コロナウイルスに対する代替消毒方法の有効性評価に関する検討委員会 発表資料】
次亜塩素酸は、有害性は低いとは言ってもやはり化学物質です。安全性を過信せず、注意して使いましょうね。