令和2年度の中小企業診断士の1次試験が去る7月11・12日に行われ、8月25日に合格発表がありました。
例年の1次試験は8月上旬だったと思うので、約1ケ月早くなっていました。受験勉強を1ケ月前倒ししなければならないので、大変だったのではないでしょうか。

なお、合格発表の際の資料によると、今年の申込者は20,169人と昨年より若干少ない程度でしたが、1科目でも受験した人数は13,622人、全科目を受験したのは11,785人と、新型コロナウイルス感染症の影響か、昨年より20%程度少なかったです。その一方、試験合格者は5,005人で例年より1,000人近く多く、また合格率も42.5%であり例年の20~30%と比べるとかなり高かったようです。

さて、1次試験に通った方は、次は2次試験となりますが、受験を支援している専門学校が主催する2次の公開模擬試験も、大手のものはほぼ終わりました。私も今は、答練や模擬試験の採点に追われています。私が製造業出身のため「事例3(生産・技術)」を主に担当させていただいております

今回は、今年の答練や模擬試験の採点をしていて気がついた点をいくつかご紹介します。
以下のような解答は得点につながりにくくなりますので、今年の中小企業診断士2次筆記試験を受験される方は意識していただければと思います。

1.与件文や設問で提供されている情報から大きく離れた提案を書いてしまう。

ビジネス誌に書いてあるような一般論や、業界の内部事情を書く方がいらっしゃいます。ビジネス関連の情報収集に熱心な方や、事例企業の業界をよくご存知で日頃から何らかの問題意識をお持ちの方なのではないかと推察します。
確かに、知っている業界の事例問題で、設問文に「中小企業診断士としてアドバイスをしてください」とあると、つい持論を語りたくなりますよね。

でも、これは「試験」なのだということを認識してください。学校の試験を思い起こせば、先生は試験問題を作ると同時に模範解答も作成していますよね。
皆さんが書く持論は、出題者が事前に模範解答を作ることができません。受験生がみな答案に持論を展開したら、採点者は採点ができません。ですから、「中小企業診断士としてアドバイスを」と言われても、あくまでも与件文や設問文で与えられている情報をベースにアドバイスする必要があるのです。

また、たとえビジネス誌に書いてあるようなことは一般論としては間違っていなくても、事例企業の状況にマッチしているかはわかりません。
例えば、潤沢な資金がないという悩みを持つ中小企業は確かに多いでしょうが、与件文中に「当社の資金面に不安はない」と書かれていたら、特段の必要性がない限り資金に関することは提案しなくても良いのです。

答案は与件文と設問文に書かれた情報と、そこから類推できることをベースに論理を構築しましょう。

2.設問で求められていることを書いていない。

設問には「課題と対策を書け」「診断士として助言しろ」「行うべき施策と留意点を書け」といった指示が書かれています。しかし、課題と対策を求められているのに課題しか書かれていなかったり、助言を求められているのに留意点が書かれていたりすることがあります。
また、単に「課題は~」「助言は~」という文字を文章中に書けばいいのではありません。
”問題”、”課題”、”対策”、”留意点”、”助言”は、書くべき内容や文章表現のしかたがそれぞれ異なります。改めて皆さんがお使いのテキスト等を確認していただきたいです。

3.論理が飛躍している、あるいは省略しすぎ。

例えば、解決すべき課題が「在庫管理の強化」だとすると、「顧客のフォーキャストを精度よく入手する」「生産計画策定の頻度を月次から週次に変更する」といった記述で止まってしまうことがよくあります。でも、事例企業はどうして精度の高いフォーキャストが必要なのでしょう?生産計画策定のサイクルを早めることで、どんな効果を期待しているのでしょう?そう考えると、これらは課題を解決する手段の一部であり、課題そのものではないと言えます。
従って、解答内容は文字数にもよりますが、「(過剰在庫/欠品を防ぐために)(フォーキャストの精度を上げたり生産計画策定頻度を上げて)在庫管理を強化する」というような答案の文章となります。

4.SWOT分析ができていない。

例年、第1問はSWOT分析に関する問題が多いです。
「強みを書け」と問われると書けますが、「なぜ生き残ってこれたのか」と問われると急に記載内容が崩れる人が多いようです。
この場合は、クロスSWOT分析から導かれる戦略、特に積極化戦略(S×O)や差別化戦略(S×T)を書くことが多いように思います。

また、S, W, O, T は、書き表し方に一定の「型」があります。書き表し方を間違えると、単なる状況説明になってしまうこともあります。
第1問は、配点の7~8は取っていただきたいです。半分程度以下しか得点できていないような場合は、普段お使いのテキストなどを読み直してください。

なお、事例企業によっては、時系列で内部・外部環境が変わっていることがあります。「なぜ生き残ってこれたのか」では過去の情報をベースにしますが、「これからどうしたらいいか」と問われた場合は直近の情報をベースに分析を行う必要があるので、注意が必要です。

5.一般論ばかり、あるいは妙に具体的すぎる。

答案の解答内容の抽象度をどのレベルにするかは、難しい課題と思います。
私自身は、「もし自分が経営者として提案を聞いたら、おおよそ何をすべきかイメージできる」程度をイメージしていました。私は品質保証が長かったので、監査の総括をする際に、監査先の経営者に「きっと、あんなことをやればいいんだろうな」と理解もらう感じです。
皆さんも、抽象的すぎると、本やインターネットで入手できるような内容となり、「そんなことは知ってる。でも具体的にはどうすればいいのか?」となりますし、逆に具体的なことを列挙しすぎると「いっぱいあるね。で、要するに、なにをすればいいんだ?」となりませんか?

文章で伝えるのは難しいので、過去問の模範解答や「ふぞろいな合格答案」などを参考にして、加減をつかんでください。

今年の2次試験(筆記)は例年とほぼ同じ10月25日ですね。
そろそろ公開模試の結果が戻ってきている方もいらっしゃるかもしれませんが、たとえ点数がとれていなくても、まだ深刻にはならないでください。私も、模擬試験は散々な出来でしたが、本番は1回で合格できました。

これからは最後の追い込みの時期となります。くれぐれも、体調には気を付けて頑張ってください。応援しています!