著者の 堤 久美子さんは、120万人「個の発展」を掲げる一般社団法人アイアイ・アソシエイツの理事長です。独立したての私が、企業の業務改善や組織変革などに対する新たな手法を模索して「U理論」や「学習する組織」を学び始めたころに、事務局長をされている照山さんを通じてお会いしました。
ごあいさつした際、「一緒にやりましょう」というようなことを急に言われて戸惑ったことを覚えています。でも、その後の私が、成人の発達やキャリアビルディングなどに関する学びを深め、コンテンツを提供し始めるようになる転換点となった出会いでした。

その堤さんが、長年研究してきたサルトルについての著書を出されたので、早速購入して読んでみました。
一般的に、哲学の本は文章が難解で、読んでいるとすぐ眠くなる人も多いと思いますが、この本では先生と生徒の対話形式になっていたり、具体的な事例が載せられているなど、とても分かりやすくて一気に読めてしまいます。そして、自分事に落しこみやすいので、日常的に悩みを抱えている方の心を軽くするヒントが満載です。

個人的には「事実と解釈を分ける」というところが特に印象深かったです。実は、自分がうつで休職していたころ、主治医から同じようなアドバイスがあったので心がけていた事だったからです。もしかすると、主治医もサルトルの実存主義を学んでいたのかもしれません。

自分がどん底にいた当時は、思考がまとまらない上に理解する力も弱かったので、負の感情に心を乱されることはあまりありませんでした。例えていうなら、黒の背景に黒を塗ってもあまりわかりませんよね。
それが回復期に入ると、自分の心に黒以外の色が出始めます。すると、心に黒い色(負の感情)が入ってくると、自分でもわかってしまうのです。いろいろな出来事や人との会話などから、良くない感情が心に芽生えることがあります。回復期に入ると、それを敏感に察知してしまいます。そして、自分がつい最近までいた真っ黒い世界に戻されるように感じて、恐怖を覚えるようになったのです。

でも、主治医のアドバイスどおり、事実と解釈を分けるように心がけると、次第に世界が変わってきました。例えば、休職中に外で誰かとすれ違い、ちらっと目が合ったとします。以前なら「バカにされているんだ」とか「蔑まされているんだ」と思ってしまいました。でも、これは私の解釈ですよね。事実は「目が合った」だけ。相手は単に、前から人が来たのでぶつからないように注意を払っただけかもしれません。

「自分の解釈」が自分の心に黒い色を入れている。そして、それが自分の持っていた思考パターンなのだと認識できたことが、病気の寛解に向けての大きな転換点だったと思います。

というわけで、私にとっての2つの転換点と関係する本書。「でも」「だって」が口癖の方に、特にお薦めします。

超解釈 サルトルの教え 人類最強の哲学者に学ぶ「自分の本質」のつくり方(著:堤 久美子 、光文社)