日本でのISO9001の審査登録制度が始まったのは1994年ころ。当時は「ISOを取らないと輸出ができなくなる」と噂され、開発に携わっていた化学分析機器のISO取得を指示されたことが、私がISOマネジメントシステム認証業務に触れるきっかけでした。

その頃のISO9001は物づくりのプロセスを管理するためのものという色が強かったため、TQCやTPM、デミング賞が取れるような仕組みを構築することが“あるべき姿”のようになっていたり、認証取り消しになることを過度に恐れて審査員に指摘されないことを目指したりしたことで、それまでの会社運営のルールとは異なった重厚長大なISO専用システムを構築することが半ば常識のようになっていました。
私自身、当時はコンサルタントの指導の下で、文書の制改訂では多くの関係者の捺印を必要とするようにしたり、「検査規格の幅が広いと審査員の心証が悪くなる」と言われて規格幅を狭めたりしていました。実際にお仕事をされている方々からは「手間がかかりすぎる」「実運用は難しい」などという意見もありましたが、「ISO取得のため」という錦の御旗を掲げて押し通した記憶があります。そのしわ寄せはISO事務局に集中し、大量の紙を印刷して捺印してファイルするという作業を内部監査や審査の数日前から徹夜で行ったり、狭くなった検査規格を外れたものを審査員に見つからないように差しさわりのない記録を選んで提示したりしていました。

その結果、それまでの業務運用の仕組みとISO認証のための仕組みという2つのマネジメントシステムが稼働することになります。まさにダブルスタンダードであり、この状態が企業活動においてよい効果が見込めないことは想像できます。私は、ISOを取得している企業の不祥事の一部は、このダブルスタンダードに起因しているのではないかと思っています。
しかし、ISO取得から10年20年と経つうちにダブルスタンダードは社内の常識になってしまいました。内心では「無駄じゃないか」「面倒くさい」などと思いつつも、「今まで審査では何も言われていない」「変えたら審査で指摘されるのではないか」などといった考えから現状維持バイアスに陥り、見直しに踏み切れないところも多いようです。

ISO9001も2000年の改訂により、“物づくりのための規格”という色を薄めています。抽象化されて分かり難くなったという意見も聞きますが、解釈の幅が広がってシステム構築の自由度が高まったとも言えます。その結果、それまでの画一的ともいえるシステムではなく自社の経営にマッチしたシステムを構築しやすくなっています。
文書管理もITの進歩により、紙に印刷して捺印後に必要部数をコピーして配付するのではなく、ワークフローで承認して掲示板で関係部署に公開するような運用もできるようになっています。

今のISOシステムが効率的ではない、無駄が多いと感じているなら、一度ゼロベースでマネジメントシステムを見直してみませんか?
これからISO取得を目指しているのであれば、コンサルタントにシステムづくりを丸投げするのではなく、今の仕組みをISO要求事項に照らし合わせながらシステムに落とし込むようにして構築することをお勧めします。